『鬼の子』二幕一場


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ところで物語の舞台は東方の大国「鉤」、時代は鉤国皇帝韋史305年のことである。鉤国は国土の北方と西方を険しい山脈に囲まれ、南方と東方を広大な海に面している。守りは極めて堅固、有史以来他国の侵入を許していない。他国へ出る道はわずか北東と南西に開けた街道のみで、要塞都市が築かれている。


始祖は呂韋灣(りょ いわん)と楊晋瓊(よう しんけい)である。

二人は現在の夏湧邑(かようゆう)、当時の湧亦郡(ようえきぐん)出身であった。湧亦郡南部は港湾都市として栄えていたが、商人と役人の癒着がひどく、北部の山岳地帯までは富が分配されていなかった。


北部地帯の名士であった呂家はこれを不服とし、南部商会の豪商であった楊家に異議申し立てをする。異議は無視され、逆に南部商会による北部への締め付けが強化。これに反発した北部地帯は呂家を将、周辺地域の名士連中を隊長として北部の男衆を軍隊にまとめあげ、南部に踏み込んだ。


とはいえ無用に農民の血を流したくなかった北部軍は呂家の長男韋灣を使者として再度南部商会に和睦を申し入れることにする。その道中韋灣を待ち受けていたのが、楊家の息女晋瓊であった。晋瓊は商いに男女の別なしと、女だてらに男たちの間を飛び回りその商才に一目置かれた存在だった。


晋瓊いわく、彼女はかねてより交易で得た富を独占する南部商会のやり方に不満を抱いていた。商会を支えるのは北部で産出される農作物や織製品などであり、北部への還元なしには安定した商売は成り立たないと、韋灣らに主張したのである。これは楊家および南部商会に対する十分な裏切りであった。


韋灣がそれらの言葉の証を求めると、晋瓊は小さな樽桶ふたつを差し出した。韋灣が中を改めると、なんと楊家当代とその妻、つまり晋瓊の両親の首が入っていたのだ。晋瓊は楊家および商会の強欲にほとほと嫌気が差しており、北部が決起した機に乗じて南部商会の転覆を図ったのである。




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