『鬼の子』一幕五場

そこから李春に与えられた仕置きは想像を絶するものだった。棒打ち、市中引き回しは当然のこととして、水責め、火責め、はりつけ、油壺、素焼き、車裂きなど、考えられる責め苦の限りを与えられた。

手足がもげ、皮ふが焼けただれても、李春は立ち上がり、役人はそれを楽しんだ。


誰の目から見ても、役人がわざと急所を外し、李春により多くの血を流させているのは明らかだった。さすがに李春を忌み嫌っていた村人たちの間にも動揺のどよめきが広がる。しかし役人はそれを舌破する。

「これぞ邪悪の申し子よ!こんな男をのさばらせていればいづれ村に災厄がふりかかるとも知れぬ。


村人よ、おのが手で邪悪を払いたくはないか。おのが手で村を救いたくはないか。なれば打ち殺せ。お前たちの手で、この男を殺すのだ!」

村人たちは狂気に呑まれた。殴り、蹴り、抵抗も出来ない李春をさいなめた。老夫婦の遺骸を辱しめる者たちも現れた。黍花は、唇を噛んでその様子を見ているしかできなかった。


役人は、事の発端となった村長の末息子をそそのかして言った。

「こたびの罪人の捕縛、一番の功労者はお主である。ゆえ、罪人にとどめを刺してやるのもお主にしかできぬことではないか。裏の納屋に火薬があろう。有事のための火薬があろう。今こそそのときではないか。」


役人は高笑いを上げた。

「これを最期の責めとしてやろう!」

村人たちも咆哮を上げた。

「やめろぉ!」

黍花の叫びは虚しくかきけされた。末息子は火薬玉に火をつけ、李春に投げつけた。胴体は吹き飛び、黍花の膝元に李春の首だけが転がってきた。

「李春!李春!」


黍花は、まだひくひくとまぶたの動いている李春の首に、懸命に声をかけた。李春の喉が、ひゅう、ひゅう、と鳴り、唇が弱々しく、動いた。

「黍花、これで、もう、大丈夫、だぞ。お、お、おで、い、痛くねぇ、がら、な。し、心配、すっな。」

そして、李春は、安らかな笑顔のまま息を引き取った。


役人たちの高笑い。村人たちの歓喜の喧騒。黍花の中で、ブツリ、と音を立てて何かが切れた。

「さて、罪人の首でもはねるかな」

まず、そう鼻唄混じりで近付いてきた役人数人の胴が、ふたつになった。それに気付いた周囲の役人や村人たちの首が、声を立てる前に、あらぬ向きへとひしゃげた。


李春が浸かった煮え油の風呂釜が、がしゃん、と、倒れ、こぼれた油に火が燃え移り、村が一気に炎に包まれた。狂乱が醒めた人々の目にうつったのは、燃え盛る炎を背に、これまた炎色の髪を逆立ててゆっくりと近付いてくる咎人の姿であった。

おおおおおお、と、咎人が吼えた。炎はどんどん燃え広がる。


そうして、村人も役人も、一人残らずくびり殺された。

李春と黍花が耕したキビ畑も、老夫婦と清洲の笑い声が響いた小さな家も、炎に包まれ、崩れ落ちた。老夫婦と李春の亡骸を抱えて、黍花はその様子を眺めていた。そのうち、亡骸に火が移った。その火が三人を燃やし尽くすまで、見ていた。


寒さと恐怖で震える清洲のもとに、姉が戻ったのはそれからいくばくも経たない内のことだった。

「おねえちゃん、みんなは?」

虚ろな目でふらふらと山を登ってきた姉に、弟は聞いた。姉は、弟を抱きしめて、物も言わず、首を横に振った。

「おれも、もう、黍花じゃない。」


黍花の名前は炎の中に置いてきた。李春らと共に、死んだのだ。

「行こう、清洲。」

事態を理解し、わんわんと泣く弟を強く抱きしめて、言った。

「誰も、知らないところへ行こう。」

村を飲み尽くした炎が、遠くに見えた。