『傾城の十八夜』あらすじ

 

主人公のサミレフは大河のほとりに築かれた大国〈メネス=イブン=ケメト〉の皇子だが、ペル・アア(=王の称号)が気まぐれに見初めた町娘を母に持つ、王位継承権は68位くらいの権力争いとは無縁の少年。しかし数年前の祭りの際ペル・アアが彼の美しさに目を留め、実の息子ながらサミレフ、「宵の楽しみ」という意味の女名を与え、ハレムに「イクバル(幸運な者、つまり「王のお手つき」)」として迎え入れた。

 

 

市井のそばでほとんど普通の少年として育っていたサミレフにとってハレムでのイクバルとしての生活は耐えがたいものだった。そこに現れたのが、隣の小国からやってきたロシャナクである。

 

ロシャナクはなんと、同盟の証としてこの国の皇子と政略結婚させられそうになっていた双子の妹を助けるため、家族にも秘密で妹に化けこの国に潜り込んだのだという。ロシャナクは妹の名、本名をシャラームといい、隣国の第一皇子であった。

 

(※シャラームとロシャナクの両親は、「雄羊の王」として兄が国を豊かにするよう、また「ともし火」として妹が兄の道しるべとなるよう、二人が支え合いながら国を築いていくよう願い名をつけた。

 

しかしロシャナクはひそかに近衛兵の青年と恋仲になっており、これを機会に駆け落ちしている。両親はシャラームがロシャナクの付き添いで国境付近まで見送りに行っていると思っており、また〈ケメト〉側はロシャナクが独りで嫁入りに来ると認識していてこの駆け落ちが成功するに至った。その仕掛け人はもちろんシャラームである。)

 

 

シャラームがそもそもなぜ妹に化け、自分の国を危険に晒し、愛する家族に嘘をついてまでも〈ケメト〉に潜入したかといえば、ひとえに自分の国を守るためそのものであった。

 

妹ロシャナクが嫁入りする予定であった相手は、サミレフのように美貌をペル・アアに愛され「タラーイェフ(黄金の光)」という女名を頂きハレム入りしたものの今や並み居る女達を差し置いて「バシュ・カドゥン(主席夫人)」の座まで上り詰めた、第6皇子ヘイダルあった。

 

(※主席夫人と言ってもあくまでも「ハレムでの主席」に過ぎず、ペル・アアの正式な妻は他にごまんと居る。また、ヘイダルは「獅子」の意。)

 

ヘイダルはペル・アアの摂政のような存在になっており、その果断に富む性格から、「ヘイダル・アル・タラーイェフ(黄金に輝くヘイダル)」と民からも崇拝の対象になっている。しかしその裏の顔は残虐非道、ひとたび戦場へ赴けば、その歩いた後には屍が道を作ると言われるほど狡猾な男であった。ヘイダルはお座なりの同盟さえ手に入れば後は難癖を付けてかの国を滅ぼしても構わないと考えていた。

 

シャラームは、そのヘイダルを失脚、あわよくば暗殺しようと画策していたのである。

 

(※小国の運命を担う同盟の重要な鍵であるロシャナクが駆け落ち。この事の重大さをシャラームは誰よりもわかっている。わかっているからこそ、来る混乱、待ち受ける戦乱に備え、小国の血を絶やしてはならぬとシャラームは決断した。ロシャナクはもちろん最後まで反対したが、シャラームは妹に眠り薬を盛り小国の未来を近衛兵に託したのだ。)

 

そこでシャラームが目を付けたのがヘイダルと同じ境遇、つまり王の息子でありながら王の愛妾としてハレムに入ったサミレフである。ヘイダルは「王の女」であるにはいささか年齢を重ね過ぎ、また権力を持ちすぎている。そこへ対抗馬としてまだ若さ瑞々しく王位を脅かさない程度に血の薄いサミレフを擁立、ヘイダルの台頭をねたむ他のハレムの女達や王位継承権を持つ皇子達を取り込んで内部紛争を起こそうという狙いなのだ。

 

シャラームはサミレフに問う。「君の本当の名前はなんだ?」と。

 

「君は『宵の楽しみ』のままで良いのかい?昼でもなければ、夜でもない。月は移ろい、星も瞬かない。宵はすぐに過ぎてしまうよ。

 

「僕は『雄羊の王』。王国を守るためなら何でもするさ。」

 

勝負はその日から数えて十八日間。ヘイダルがシャラームの祖国へ侵攻するまでのカウントダウンである。美しき男達の闘いが今、始まる。