『アイドル系桃太郎』

あらすじ後編

桃太郎と鬼一が密談を交わしている頃、その他の者たちは鬼ヶ島の浜辺で一触即発の空気の中に居た。特に弟が行方不明の双鬼と里を焼かれた源之丞は怒り心頭に発すという勢いであった。

双鬼「おらの弟さどごへやっだ、ぁあ?」

貞輔「それを言うなら俺らの大将もどこへやったんだよ」

 

白鬼「雉のお兄さんは怒り心頭に発すってところかな?」ころころと笑う白鬼に、源之丞は答えなかったが、全身から痛いほどの殺気を放っている。

黒鬼「それに比べて犬のお兄さんは邪気がないね、本当に桃太郎が好きなだけでここに来たんだね」旭日丸はタラリと汗をかいた。

 

実は桃太郎の失踪にいち早く気付いたのは旭日丸であった。鬼一は桃太郎を盗み出すときに眠り香を使い桃太郎一行はまんまと計略にはまったのだが、その匂いが消えたときに桃太郎の匂いがなくなっていたことに気付いたのは山犬の鼻の手柄だった。

 

そこでひそかに山へ駆け、山犬の仲間に山猿と合流して危機に駆けつけるよう知らせを送っていたのだが。

黒鬼「君たちが援軍を待っているのなら、来ないよ」白鬼「僕らが怖いのは天の加護を受けた君たちだけ、そうでない君らのお仲間は怖くない」黒鬼「兵はもう送っているんだなぁ~」

 

双鬼「一族郎等皆殺しにされるのは今度はどっちの番かいな」

その言葉を聞いて戦いの口火を切ったのは、他の誰でもなく貞輔であった。「女子供も殺すというのか!」

それを受けたのは双鬼。「あたりきよ!それがぬしゃら『桃太郎』のしてきたことじゃわぃ!」

 

その言葉と共に、双鬼らの背後に控えていた鬼の軍勢が陽炎となって消えた。源之丞の酉の目が捉えたのは。「人間の町村か…!」

双鬼「ぬしゃらが生まれなんだら我らは生まれず。ぬしゃらが憎しみ争いあわなんだら我らは殺されず。全てぬしゃら人と人に荷担する生き物のしたことをそのまま返すだけよ」

 

黒鬼「憎悪の黒鬼」白鬼「怨嗟の白鬼」双鬼「鬼奴ばら悲憤慷慨の双鬼じゃ。冥土の土産に刻んどけ!」

すわや死闘の始まりや、と思われた瞬間!

桃太郎「その喧嘩ちょっと待ったぁあー!」

空から桃太郎が降ってきたではないか。と、共に降りてきたのは。双鬼「鬼一!」

 

貞輔「桃太郎ーっ!お前こんな時にどこ行ってたんだ!!」旭日丸「大変だ、村や町やおれらの仲間が襲われてる」双鬼「きっさま、鬼一を拐っただはやっぱ桃太郎かぁ!」黒鬼&白鬼「トリアエズコロス」源之丞「殺されるのは貴様らの方だ!」

 

桃太郎&鬼一「だから喧嘩は待ったっつーとろーが!!」

 

桃太郎「おめーらちょっと待っとけ、今お出ましだから」鬼一「兄者、黒鬼、白鬼、ちっと待っててくれたのむから」

そう言って、桃太郎は西の空を見据え、鬼一は鬼の岩宿の中へと駆けていった。

そうして半刻ばかりが過ぎ、皆が苛立ってきた頃、西の空になにか黒い雲がかかったように見えた。

 

黒い雲は雲ではなかった。各地に散った鬼たちや、旭日丸や貞輔の一族、のみならず、先日命を奪われたはずの雉の一族たちの姿もあった。彼らは皆一様に(少々荒っぽく)鬼ヶ島の浜辺に着地した。その理由を誰よりも早く理解したのは双鬼であった。「貴様、よりにもよって天帝を呼びやがったな!!」

 

吠えると共に殴りかかる双鬼、桃太郎の喧嘩嫌いななよなよしさを知っている者達は絶体絶命と思った。しかし!

『パシッ!!』

桃太郎は、なんと片手で双鬼の拳を受け止めたのだ。桃太郎「だからオメーの弟が待っとれってんだから大人しく待っとれってんだよ」

「そうよ、双鬼、お止めなさい」

 

双鬼「お方様!」鬼一が岩屋戸の中から手を引いてきたのは小柄な老婆、その姿を見て、その場にいた鬼達が一斉に平伏したのだ。

「天帝玉皇大帝よ、久方ぶりですね」老婆の語りかけに、後光と共に雲海の中から姿を現したのは天帝その人。「后土皇帝よ、誠、久方ぶりである」

 

后土「まさか滅多に天上からお出になられない貴方から此方へおでましになるとは」

天帝「そこなる桃太郎にちとガツンとやられたでの。それより永らく彼の地に籠もっておったお主が岩屋戸から外に出てくるとはの天照大神も驚きじゃ」

后土「ほほほ、妾もここなる鬼一にガツンとやられますれば」

 

会話の内容こそ穏健であったが、二人の間に超えがたい溝、流しがたい確執があるのは、次第に重くなる空気、文字通り立ち込め始めた暗雲でそこにいた誰もがピリピリと感じていた。そんな空気を破ったのは。

「おっさん!そんなことさせにここに連れてきたわけじゃねーぞ!約束果たしやがれクソボケ!」

 

優しげでいて、きりりとした声。それを発したのは桃太郎であった。

「桃太郎、いったいこれはどういうことだ」失ったはずの妻と子を両の腕にしっかと抱きながら、源之丞が訪ねた。

「なんてこたぁねえ、鬼一の話を聞いてどうしても天帝のおっさんが気にくわなくなったからちょっとばかしぶっ飛ばしてきてやったのよ」

 

海辺での密談のあと、桃太郎は鬼一に連れられ鬼達の「お方様」こと后土皇帝に会いに行っていた。普通の鬼達でも立ち入ることは禁忌である岩屋戸の奥深くだったが、都合の良いことに戦える鬼達はこぞって「穢土狩り」に赴いていたため少々手荒に后土皇帝の屋敷へ押し入ったのだ。

 

全てを見透かすような后土皇帝の瞳に怯みながらも、桃太郎に背中を押され、鬼一は訪ねた。「お方様、何故兄者は生まれたのですか」

本来、鬼ヶ島に集まってくる魂魄は人間のケガレであるはずだった。それが何故、殺された鬼達の無念が凝結し、双鬼として生まれたのか。鬼一はずっとそれを尋ねたかった。

 


←粗筋中編 | あとがき→


NOW LOADING...

筆者にやくそう→拍手