『アイドル系桃太郎』あらすじ前編


~桃太郎とは


桃太郎が人の世に生まれ落ちる前のお話、天上界で大々的な集会が行われた。主催は世界を司る天帝で、召集されたのは万物の生き物達の長である。

天帝は言った。「百年に一度の鬼退治の年がやって来た。此度の鬼退治に随伴する生き物を決めようぞ」


自薦、他薦、くじ引き、責任転嫁など諸々の喧喧囂囂を経て、三種類の生き物たちが代表として選ばれた。天帝は仙女たちを連れ、天界の庭に生える立派な桃の木から仰々しくもいだ。「これから三ヵ年、桃太郎が立派に成長するまでそなたたちは戦に備えるのだ」

その桃に少しの傷が付いているとも知らず。


三年の月日が流れた。桃太郎はすくすくと成長し、気さくで朗らかな、誰からも好かれる気持ちの良い青年になっていた。桃太郎を育てたじいさまとばあさまは、ある夜桃太郎に告げた。「お前はほんとうは人ではありません。鬼退治という指名を与えられた天の子です」


「私たち村のものは皆、お前を守り育てるために天から地に遣わされた天上人です。お前は鬼退治に行くのです」

柴を刈ってのんびり暮らしていた桃太郎からしたら驚天動地の話だったが、定められたことは定められたこと、と、あれよあれよと戦装束が整えられ桃太郎は家から放り出されてしまった。



~おともの犬、旭日丸


なにはともあれ鬼退治に出発した桃太郎だったが村を出て、人の噂も届かなくなるまで歩いたところでじさまばさまが用意してくれた戦装束を脱いでしまう。生まれてこのかた柴を刈って育ってきた暢気な桃太郎には戦なんて真っ平御免だった。申し訳ないと思いつつ、刀や鎧は売ってしまった。


このご時世に鬼なんて信じられなかったし、仙術だの武術だのも馬鹿馬鹿しかった。とはいえすぐに家にとんぼ返りするわけにもいかないので桃太郎は戦装束を売ったお金とばあさまが持たせてくれた吉備団子で鬼ヶ島まで観光に行くことにした。その道中で拾ったのが白い髪の旭日丸という青年だった。


桃太郎が倒れている旭日丸を見付けた時、彼はもう八日も飲まず食わずで野垂れ死にかけていた。桃太郎が手持ちの団子を分けてやると、不思議とみるみるうちに息を吹き返してきたので、急いで近くの茶屋へ運んで行った。息を吹き返した旭日丸によると、この年は植物の実りが少なく、水が枯れ、獣たちも数を減らしていて、獲物が捕れずにいたのだという。


そんな四方山話をしていると、茶屋に柄の悪い男たちが数人、ずかずかと上がり込んでくる。「桃太郎殿、我らは山犬一族の使い。この度は貴殿をお迎えに上がりました」二人が返事をする前にその連中は風のように桃太郎を拐い、山へと消えて行ってしまった。

旭日丸は、一団の顔に見覚えがあった。


桃太郎は、山犬一家の首長の屋敷で(半ば強引に)ご馳走と共にもてなされ、戸惑っていた。山犬の首領は言う。「我々は、鬼退治随伴に一番に名乗りを挙げた部族だ。今回の桃太郎殿はちとのんびりしたお方のようなのでこちらから迎えに馳せ参じたのだ。他の奴等は尻込みしているようだが、我々は違う!」


曰く、「桃太郎」のお供をする生き物たちは、毎回違うのだと言う。八卦や風水、その他諸々の仙占を経、選出されたその時の霊獣達の長たちの中からら、立候補ないしくじ引きによって決定されるのだと。「我々山犬族は鬼など恐れぬ、共に闘い名誉を得ましょうぞ!」桃太郎は、はぁ、と言うしかなかった。


そこへ駆け込んできたのは旭日丸。彼を見て、山犬の長は「おやおや」と言う。旭日丸は彼の末息で、毛の色の白いことを馬鹿にしていじめぬいた挙句、幼い頃に一家から追放していた。「山野では白色は禁忌。狩りに支障があれば排除するのが野生の掟です」媚びる長に、桃太郎「あんたらとは行かない。」


桃「あんたらの生き方をどうこう言うつもりは無いけど、鬼ヶ島へのお供は旭日丸だ。さっきお茶屋でそう決めた」

長「ならぬ!鬼退治の随伴は長が行う、それが天帝のお達しである」

桃「だって俺、天帝知らねえもん。第一あんたらどう見ても山賊だろ。そんな怪しいやつとどうこうできるかってんだ」


そこで均衡を破ったのは、旭日丸だった。「ならば、今おれと闘え。兄者ら共々おれが倒しておれが山犬の長になる」それならば問題はあるまい、とすごむ旭日丸の体は、どんどんと膨れ上がって、桃太郎と肩を並べるほど巨大な純白の山犬になってしまった。

桃の心中(やっべ、マジで山犬だったのか滝汗)


死闘の末、旭日丸は勝った。かつて追い出された群の、長となった。しかし父と兄たちには一族に残るよう命じた。「おれは群の率い方はわからない。おれはこの人と一緒に行くから、群のことを宜しく頼む」敗れた山犬たちは決まりが悪そうだったが、旭日丸の遠吠えがしたらいつでも馳せ参じると約束した。



~おともの猿、貞輔


そうして出掛けた「鬼退治」の道中だというのに、桃太郎と旭日丸は意気揚々と物見遊山に励んでいた。しかし秘境温泉があるといわれて入った山の中で、間抜けなことに二人は道に迷ってしまった。「山では迷わないのに。おかしい。かどわかされているみたいだ」旭日丸が言った。


旭日丸の予感は当たった。二人は獣用の罠にかかり、大猿達に取り囲まれてしまった。「今年の桃太郎殿は噂通り間抜けなようだな」憎しみの目を隠そうともしない山猿達の首領は、貞輔といった。

縄で縛り上げられ、二人は山猿達の巣に連行された。険しい自然の要塞だった。


「人間に与するお前が人間の仕掛けた罠にかかる気持ちはどんなもんだ」貞輔は蔑んだ声で言った。「天下の桃太郎様がこの阿呆面だ。やっぱり人間なんて、ろくなもんじゃない。」

貞輔曰く、桃太郎が退治する(とされている)鬼は、人間の負の感情が結晶化して産まれるものであった。


鬼は殺されない限り死なないが、増えすぎると人の世に悪影響を及ぼすので、定期的に天から「桃太郎」が遣わされ「駆除」するのである。「人間の自業自得のために周囲の生き物達に悪禍が及ぶ。人間の尻拭いをなんで俺たち他の生き物がせにゃならんのだ。…お前ら、やはり夜討ちは決行だ!」


縛り上げられ石の牢に放り込まれた桃太郎と旭日丸の、縄を切ってくれたのは、他でもない貞輔の妹であった。巨躯の兄と違い病的なまでに青白い肌をした少女は言った。「兄は、私のために人間の村を襲うつもりです」妹は、幼い頃人が仕掛けた罠にかかり瀕死の重傷を負ったことがあったのだ。


それ以来、妹は寝起きもままならないほど体が弱くなってしまった。貞輔は憎しみを絶やすまいと妹をはめた罠を自室に掲げていた。それに、里の人間たちはここのところ度を越して山を切り開いて、山の生き物達の生活を圧迫していた。憤慨した貞輔は度々仲間とともに里を襲っていたのだ。


その怒りが、桃太郎を見て爆発したのだ。憎むべき人間を守るべき存在。鬼退治の伴をするなんて貞輔には考えられなかった。「せめてあなた達だけでも逃げてください。兄と里の人たちとの争いで、ここは火の海に沈むでしょう」

「いや、俺に任せてくれないか」さめざめと泣く妹に桃太郎は言った。


村では争いの火蓋が切って落とされようとしていた。そこへ飛び込んできたのは、桃太郎と、朝日丸に抱えられた貞輔の妹であった。

「戦はやめて!」かよわい女性の悲痛な叫びに、男たちの士気が一気に削がれていく。「なぜ来た!」貞輔は怒りを隠そうともしない。

「兄様に殺しをしてほしくないの」


「もしここで小競り合いが起これば、私と同じように傷つくものが出るでしょう。それは兄様と同じように心を痛めるものが出るということ。それが辛いことだということは兄様が誰よりもよく知っているじゃない…!」

ぐっと黙る山猿の一家に対し人間だちは心強い援軍が来たと思い凱の声を挙げた。


しかしそちらを一喝したのは桃太郎であった。

「そもそも山猿たちが傷付き食べるものを失ったのはお前たちが無造作に山を切り開いたせいだぞ!ここが入山禁止、殺生禁止の聖なる山だと知ってのことか」貞輔の部屋の壁にかけてあった罠をちらつかせて桃太郎は言った。「これは禁止されてる罠仕掛けだな。これが領主様に知られたらどうなるかな」

ここ一帯の山々を領地に持つ領主は信心深く、仏教を重んじ、山々一帯を修行の場に設定していた。


山に入って良いのは一部の修行僧と定められた木こりたちだけである。それが御禁制を破り仏教修行の聖地で獣を狩っていたとなれば、どのような仕置きを受けるかわからない。

「だがそれでは村の生活はどうなる。食うものは。生活に必要なものを購う金はどこから手に入れればいいのだ」村人も必死だ。


「簡単だ。山とともに生きろ。」

桃太郎の突拍子もない提案に一同は口を揃えて非難した。「あーっもうっ、そうやって喧嘩をするから山神様の傷が開くんだ!」苦しそうな妹の様子を逆手にとって、桃太郎は言った。「ここにあらせられるは山を司る山神様だぞ。村のみんなは神の祟りを受けてもいいのか」

それは嘘八百だったが、村人達を黙らせるのには効果的だった。


「あと貞輔!もしお前が戦をやめないなら妹さんはここで死ぬって言ってるんだぞ。大切な妹を失いたくないだろ。」

貞輔も村人たちもしぶしぶ得物を置いた。

「村のみんなはこれ以上山を荒らすな!山猿も里を襲っちゃダメだ。村人は田畑をよく耕し、山猿は森を手入れし、お互いの幸を交換するんだ」


貞輔は怒り心頭に発した。「そんなざれ言が通用するとでも…」「後ろ見てごらんよ」桃太郎は貞輔の言葉を遮り山猿のみんなを指差した。そこには、しょぼくれ、意気消沈した若者たちの姿があった。

「大将、おれ、戦なんて嫌だよう」

「戦わなくていいならそっちの方がいいよ」

貞輔は愕然とした。


「村のみんなもだよ」

「…まあアレだ、領主様はおっかねえから、知らずにやったとしてもそんなことが知れたら俺たちの村は終わりだ。ことを荒立てたくはねえよ」

「…な?ここで喧嘩したいのは貞輔だけだよ」

ついに貞輔が折れた。

「おれたちの旅に着いてこいよ。お前ちょっと世界が狭いぜ」


貞輔が抜けたあとの山猿の群れを託されたのは、No.2だった若者だった。実は若者は貞輔の妹といい仲で、妹は必ず自分が守ると貞輔に誓ってみせたが、拗ねてしまった貞輔は「当たり前だ!」とだけ一喝して足音も荒く桃太郎達を引き連れて山を降りていった。

桃太郎は妹に、体を癒す効能があるからと吉備団子を分けてやった。