『アイドル系桃太郎』あらすじ中編

~お供のキジ、源之丞


群れから仲間はずれにされたような気がして貞輔が凹んでいる…かと思いきや、そんなこともなく、ほっとした様子でいることに桃太郎は気付いた。

言葉にこそしなかったが、貞輔は復讐に心囚われていたことを悔いていて、ひとり山から出ることは彼にとって贖罪の意味があった。


そんな一行は山を降り、鬼ヶ島まであと一息という平原まで出てきた。一行はみな山育ちだったから広々としていて背の高い木が這えていない草原に目を丸くした。しかしかすかに風にのって運ばれてきた臭いに山犬の旭日丸の鼻が反応した。


旭「野火だ」

貞「たんなる野焼きじゃねえのか」

旭「野焼きは春先にやる。秋口の今やってもしょうがない。それにこの辺じゃ生き物を追いたててから火をつける。生き物の焼ける臭いが混じるはず無い」

貞「もしかしたら火付けかもしんねぇな。行こう。」

桃「ねえなんの話をしているの????」


現場に到着してみると、炎に巻かれた生き物たちの焼け焦げる臭いが充満していて一行は思わず鼻を覆った。いまだくすぶる炎の中心をまじまじと見て、さらに一同は驚いた。たくさんの黒こげの死骸が山積みになっていたのだ。

なんだあれは、と言う間もなく

「桃太郎危ない!」

奇襲を受けたのだ!


「おのれ桃太郎、貴様のせいで我らは鬼共の毒牙に掛かったのだ。この怨み晴らさでおくべきか!」

桃太郎を襲ったのは辺り一帯に棲息していた雉族の族長・源之丞であった。旭日丸と貞輔の二人がかりでようやく源之丞を取り押さえて話を聞くところには、数刻前に鬼の襲来を受けたのだという。


貞輔の話も混ぜて説明すると、源之丞は鬼退治随伴三獣士の一であったが、もともと雉という生き物の飄々としたところで鬼退治に乗り気ではなかったという。源之丞が族長に選ばれたのも、互いが互いに押し付けあって最終的にお鉢が回ってきたからというだけのものだった。


とはいえ鬼たちへの備えがなかったわけでもない。雉は脚が強く、喧嘩が強い。源之丞はそれを鍛えて一軍として育てていた。しかし秋口のこの頃は時悪く雛たちの巣立ち間近で女たちが身重だった。火を付けられて逃げ惑ったところへ女子供をかっさらわれて皆殺しにされるという惨状を招いてしまった。


源「鬼ヶ島には、人の怨嗟が産み出す宝玉の他に、黄泉還りの力を持つ水晶珠があるという。俺を鬼ヶ島へ連れていけ!お前を餌に鬼共から宝珠を奪い、我が一族を甦らせてくれるわ」

さしもののんびりした桃太郎も、自分が原因で鬼が雉の一族を襲ったと聞いてはその執念を諌めることはできなかった。


鬼は焼ける雉の女子供を背に、言い放ったという。

「桃太郎はじめ天上界が我らに干渉しなければ、我々もこのように残酷な仕打ちをしなかったものを。だが忘れるな、天上界はこれと同じことを幾度となく我々にしてきたのだ」


鬼ヶ島への出発前夜、桃太郎はひとり眠れずに星空を眺めながらぼーっと考え事をしていた。自分が争いの渦中にいることは身に染みてわかった。それにしても何故自分は争いの渦を巻き起こす張本人として生まれ落ちたのか。鬼たちとは何者なのか。しかし考えても答えはでなかったので桃太郎は諦めて寝た。



~鬼の頭領、鬼一


桃太郎が目を覚ますと、眠る前にいた雉の里とは全く異なる、海波が打ち付けるごつごつとした海岸に寝ていた。「ようやく目ん覚めたかぃや寝坊助野郎が」声のする方を見ると、なんとそこには一匹の鬼がいるではないか!「ホレ、食わぃ」少年らしい鬼が放って寄越したのは握り飯だった。


「時間がねっけぇ耳かっぽじってよぐ聞け、…安心しろよ、わざわざ人間の里から盗ってきたぁに毒なんか入っちゃねぇが。…オレは鬼一(きいち)。鬼の頭領だ。オレは桃太郎に和平を申し入れたい。とっとと受けれ。でねぇとえれぇことがおぎる」

尋常でない様子に、桃太郎も気が引き締まる思いがした。


「いいか、一言で言うとオレの兄弟はヤバい。おめぇが昨日居た雉の里、焼いたのはオレの兄弟だ。兄者が双鬼、弟が黒鬼と白鬼ってぇ。そん兄弟が、精鋭の鬼の軍勢を率ぃて人間の国に侵攻しようとしてる。必ず死者が出る。おめぇがここで二度と『天帝は桃太郎による鬼退治をしねぇ』って言ゃ事が済む!」


桃太郎「なんでお前は鬼なのにそこまで」

鬼一「オレはオレの兄弟の心配をしてんだ!」

怒号のあと、鬼一は呼吸を整える。

鬼一「おめ、鬼がどやって生まれっか知ってっか」

桃太郎「人の負の感情が結晶化して」

鬼一「そうだ。人の悪い感情は魂魄になって全てこの鬼ヶ島に集まって来。」


「そこで水晶の茎と葉に支えられながら様々な金銀宝石になり、育つ。それが花開くと、オレら鬼が生まれんだ。」

桃太郎は鬼一が言わんとするところがわからない。

「鈍いやっだなぁ!つまりよ、オレたちは人間の一部でありながら人間に仇なすもんなんだ!で、おめぇら『桃太郎』は人間を守るために天の加護を受けてる!」


鬼一「おめぇら変な団子みてぇの食ったっぺよ?!」

桃太郎「あ、吉備団子のこと?」

鬼一「あれにはとんでもねぇ法力が含まれてんだ。おめぇらがどんだけ烏合の集でもオレら鬼はその法力に逆らうことは出来ねぇ。死者が出るのは、おめぇらを襲いに行った兄者たちの方だ!」


鬼一、がっくりと肩を落とす。

「オレは、鬼の頭領だ。普通魂魄になった悪ぃ心は前世やなんだの記憶を全部忘れて鬼ヶ島に来て、数ヵ月から数年で花が咲く。その間の記憶も勿論無いし、支えになっとぅ水晶から離れるとただの宝石になっちまう。」


「でも鬼の頭領になる宝石だけは、全部の記憶を持っている。普通の奴等がせいぜい人一人分の悪ぃ心で出来てるとしたら、頭領になる宝石には、何千、何万という魂魄が集まって出来る。オレはそうして生まれた。…そうして、兄者も。」


「宝石の中で育てられているとき、兄者が頭領になるもんだと思って疑わなかった。だって、すげぇでっけぇ黒瑪瑙、見たら誰だって頭領だと思うろ。でも、兄者は、忌み子だった。普通の鬼じゃねがったんだ。兄者は、今までお前たちに斬られてきた鬼の怨念が、何百年分も固まって生まれた忌み子だった」


「兄者は頭領にはならなかった。王の息子にもなれなかった。代わりに頭領になったのは、非力なオレだ。後から生まれた弟たちもオレより強かった。兄者はそんな、弱ぇオレや他の鬼たちにすげぇ優しくしてくれた。俺なんかよりよっぽど立派な頭領だった。」


「でも兄者の中には何百年分の鬼の怨念が詰まってる。今までの鬼たちは桃太郎に毎度毎度根絶やしにされてたから百年に一度『鬼退治』があるなんてこっも知らねぇでのほほんと暮らしてて、ひどい目に遭ってきた。でも兄者はそれを見てきた。ようやく生まれた今、人間や桃太郎や天帝を許しゃしねぇ。」


鬼一「この百年、兄者に鍛えられてきた鬼の軍勢は、どんなことがあっても、天帝が『鬼退治』をやめるまで、戦いをやめねぇだろうよ。オレは、みんなに死んで欲しくねぇんだ」

しん、と、静寂がそこに落ちた。聴こえるのは波の音だけ。口火を切ったのは、桃太郎の方だった。

「和平、しようぜ。」


←粗筋前編 | 粗筋後編→


NOW LOADING...

筆者にやくそう→拍手